突然ですが・・・
「頑張って支援しているのに、補助金が採択されない」
「事業者ヒアリングが“しんどい”と感じる…」
そんな悩みを抱える中小企業・小規模事業者の経営支援を担当する皆さんへ。
おはようございます。経営指導員&中小企業診断士のセバスチャンです。
今回は、経営支援における技術「ヒアリング力」に着目し、事業者の満足する事業計画をどう提案するか、具体策を解説します。
この内容を学べば、ヒアリングが「楽で面白い」ものに変わること間違いなし!
補助金活用のカギは「ヒアリング力」にある!
ヒアリングとは、単なる「御用聞き」ではありません。相談事業者の課題を引き出し、最適な提案へ導く“戦略”です。
経営支援方程式(経営支援能力 = 行動量 × ヒアリングスキル × カルテ基盤)
事業者の補助金活用における経営支援では、この3要素の掛け算によって「成果の質とスピード」が決まります。単に制度を説明するだけではなく、事業者に響く提案を行うために、次の観点が欠かせません。
要素 | 解説と補助金活用への展開 |
行動量 | 支援先への訪問件数・打ち合わせ数・提案回数の蓄積が、実践知と関係構築のベースになります。これを支えるツール(音声認識アプリ・クラウド共有等)導入も業務効率化につながります。 |
ヒアリングスキル | 事業者の“想い”と“本音”を引き出し、事業構想につなげる力。課題把握→仮説→再質問の技術を研修や実地指導で習得する。他者と差が付く能力。 |
カルテ基盤 | を整備。Excelや社内データ活用によって、他支援者との連携や補助金申請書作成がスムーズに。 |

中小企業診断士ワンポイントアドバイス
行動量
ここでの行動量とは、訪問回数やヒアリング件数だけでなく、「いかに記録と共有がスムーズに行われているか」も含みます。
特にDX時代の経営支援においては、音声認識アプリ(例:Nottaなど)を活用してヒアリング内容を即時にテキスト化し、クラウド上で関係者と共有することで、支援記録の抜け漏れを防ぎ、次回の支援にもつながる「質の高い行動」となります。
カルテ基盤
経営支援においては、担当者が変更になっても、過去のやり取りや提案の背景を把握できるデータの蓄積が不可欠です。
最近では、Googleの提供する「NotebookLM」を活用し、事業者ごとに支援カルテをクラウド上で管理する手法がおすすめです。NotebookLMは、過去の議事録や計画書をもとに、チャットボット形式で内容を検索・対話できるため、新たな支援者でも即座に状況を理解でき、継続的かつ質の高い支援につなげることができます。
つまり、「行動量」と「カルテ基盤」については、AI技術を正しく使いこなす社内規則や運用ルールさえ整備されていれば、かなりの部分を自動化・効率化できます。
NotebookLMやAI議事録のようなツールをすでに運用している組織と、導入していない組織とでは、支援のスピードや質に大きな差が出るのが現実です。
一方で、「ヒアリングスキル」だけは生成AIには代替できません。顧客の表情や声色、言葉の裏にある“本音”を感じ取り、共感し、必要な質問をタイミングよく投げかける。こうした「人間らしい対話力」は、今後も支援者自身の経験と訓練によって磨かれるべき力です。
✅提案型ヒアリングスキルの基本
下記に、私が現場で実践しているヒアリングスキルの基本を紹介します。
- 状況を伺う:現状の組織や社内の仕組みをヒアリングし、前提を確認する。
- 問題を問う:現状における不満や不便、課題感を聞き出す。
- 影響を問う:その課題を放置した場合にどのような損失があるかを深掘りする。
- 課題を設定する:今すぐ対処すべき優先課題を支援事業者と合意形成する。

このプロセスを丁寧に踏むことで、単なる申請支援者ではなく、事業者の本質的な経営課題をともに見つけ、整理し、道筋を提案する「課題解決型の伴走支援者」としての信頼を得ることができます。
✅アンゾフの成長マトリクスの活用
ここでは、中小企業診断士の観点で、具体的な例をご紹介します。今回は、「アンゾフの成長マトリクス」を活用していきます。
例えば、ヒアリングによって得られた情報は、事業戦略にも展開可能です。
以下の4つの成長戦略に照らして、補助金申請のストーリーを組み立てると審査でも評価されやすくなります。
区分 | 内容 | 補助金でできること |
市場浸透 | 既存顧客へのアップセル、クロスセル | 顧客分析ツールや営業管理システムの導入 |
新市場開拓 | 高齢者・外国人など新ターゲット層へのアプローチ | 多言語HP、SNS広告運用 |
新製品開発 | 顧客ニーズに基づいた新メニューやサービスの立案 | 商品開発費、設備導入費 |
多角化 | 新たなビジネスモデル構築 | DX支援費、人材育成経費 |
✅ヒアリングシートで見えてくる「足りない視点」
私が過去、新人のSVや経営指導員に同行したところ、以下のような傾向が見られることが多かったです。
- 目標が「売上アップ」だけで終わっている
- 「誰に・何を・どうやって」の戦略が曖昧
- 顧客ニーズが“感覚的”で、根拠が乏しい
こうした曖昧さを解消するのが、まさに“仮説思考”と“ヒアリング技術”です。

中小企業診断士ワンポイントアドバイス
昭和や平成の「気合と根性」でなんとか乗り切ろうとする傾向は危険です。論理的根拠や数値分析が軽視されている経営支援は根拠がありません。
気合だけの支援は一時的な励ましにはなっても、事業者の真の課題解決にはつながりません。補助金支援においては、計画の整合性・再現性・客観的な裏付けが求められます。感覚や経験値だけに頼った支援では、採択率は伸びず、事業者の納得感も得られません。
こうした曖昧さを解消するのが、まさに“仮説思考”と“ヒアリング技術”です。
✅実践型経営支援につなげる3ステップ
ここでは、実践型経営支援につなげる3ステップについて解説します。
- 仮説を持って支援に臨む「◯◯業界は人材不足が深刻→この事業者も採用に課題を感じているのでは?」など、事前情報と業界知見から支援の仮説を立てておくことが重要です。これにより、ヒアリングの方向性が明確になり、短時間で本質に迫ることができます。
- 仮説検証型ヒアリング:「この課題が放置された場合、今後どのような影響が出そうですか?」といった影響質問を通じて、仮説の正否を検証しながら、経営者の“気づいていない課題”の掘り起こしを行います。表面的なニーズに留まらず、構造的課題を浮かび上がらせるステップです。
- 提案→事例提示→クロージングの黄金ルート:支援の仮説が共有・合意できたら、他社の成功事例などを提示し、「同じように進めてみませんか?」と共感を促しながら、提案内容への納得感を高めてクロージングにつなげます。事例を見せ、信頼を得てから「ご提案させていただきますか?」でクロージング。
中小企業診断士ワンポイントアドバイス
「当たり」をつける能力
「当たり」を付ける、または「見立てる」能力とは、「事前調査」と、いまままでの「経験」を重ねることで、現場に行く前に支援事業者の問題を特定する能力です。
もちろん、現場に行き、「違った」ということもありますが、「違った」ということを知ることで「他の方法」を特定できることにもなります。
この「当たり」をつける能力、皆さんはどれくらい活用していますか?

✅実践型経営支援が、補助金支援をどう変えるか?3つの視点
事業者に対して本質的な経営支援を実践することができれば、補助金申請の質と通過率が劇的に変わります。
なお、以前のブログでも解説しましたが、【代理申請】は違反です。事業者自らが事業計画を策定できる状態に持っていく支援が、一流の実践型経営支援となります。
以下は、経営支援スキルや体制強化が補助金申請にどのような効果をもたらすかを整理した3つの視点です。
観点 | 実践内容 | 補助金支援への効果 |
支援スキルの高度化 | ヒアリング技術や課題設定力、補助金申請に必要な根拠整理スキルを磨く(研修・OJT・外部学習) | 事業目的と補助金要件が整合し、採択率が向上する |
情報管理体制の強化 | カルテ情報をクラウドで蓄積・共有(NotebookLMなど) | 複数人支援でも一貫したストーリーがつながり、書類作成ミス・重複支援のリスクを回避できる |
広報・販売計画の設計支援 | SNS、LP、広告戦略まで提案をサポートし、補助金計画の“売上根拠”を見える化 | 審査員にとって具体性・実現性の高い事業計画として映り、加点要素となる |

✅地域を変える“聞く力”をあなたにも
経営支援の核心は「聞く力(ヒアリングスキル)」にあります。
これは単なる情報収集ではなく、事業者の本音や価値観、悩みの本質に寄り添い、共に課題を言語化する力です。支援者がこの“聞く力”を持つことで、補助金申請の書類も、ただの制度利用ではなく「事業者の思いが反映された計画」に昇華されます。
あなたがこれまで培ってきた“ヒアリング力”は、制度や資金だけでは解決できない地域の経営課題を動かす、大きな起爆剤になるかもしれません。
もし今の経験を地域に還元したいと思った方は、ぜひ商工会・商工会議所に転職し、経営支援活動をしていく人生も選択肢に加えてみてください。
私たちは“傾聴”を原点に、地域の未来をともに切り拓いています。
✅まとめ:経営支援方程式 × 補助金活用が最強の武器に
これまで見てきたように、補助金支援の成果は単に制度の説明力ではなく、どれだけ「経営の本質」に寄り添った支援ができるかにかかっています。特に「ヒアリング力」は、支援対象者の潜在的な課題を掘り起こし、補助金を“道具”として効果的に活用するための核となるスキルです。
また、支援の現場では、AI議事録やNotebookLMのようなツールを活用することで、行動量と情報管理を効率化し、質の高い支援がチームで実現できるようになります。これらを実践的に組み合わせた“仕組みとしての支援体制”こそが、これからの補助金支援のスタンダードとなるでしょう。
※生成AI×経営支援については、別の記事で記載しているので、ご興味のある方は、そちらを合わせてご確認ください。
- ヒアリングができれば、補助金も成果につながる!
- 補助金を活用するなら、「経営支援方程式」も視野に!
- 補助金は“経費の穴埋め”ではなく、“売上を伸ばす仕組み化”の手段!
目の前の制度に振り回されるのではなく、「制度を通して事業者の未来を支える」——その視点を持つことで、あなたの支援は間違いなくワンランク上の信頼を獲得できるはずです。
参考書
【独学におすすめの教材】
【最後の一押しテクニック】
【2次試験対策】
【実践で使うおすすめの本】