突然ですが・・・
ChatGPTに代表される生成AIツールは、文章作成や情報整理、発想支援などにとても便利な一方で
「社内情報が漏れるのでは?」
「セキュリティ的に危険なのでは?」
そんな不安をお持ちの、「生成AIを業務に活用したい」と考える中小企業・小規模事業者の皆さんも多いのではないでしょうか?
おはようございます。経営指導員&中小企業診断士のセバスチャンです。
今回の解説では、そんなお悩みにお応えするべく、生成AI導入時におけるセキュリティリスクとその具体的な対策について、わかりやすく解説します。
この解説を学べば、生成AIのリスクを理解した上で、安全かつ効果的に業務に活用する方法がしっかりわかること間違いなしです!
生成AI導入で懸念されるセキュリティリスクとは?
2023年3月にはOpenAIの不具合により、一部ユーザーのチャット履歴タイトルや個人情報が他ユーザーに見えるというインシデントが発生しました。
また韓国のサムスン電子では、社員がChatGPTに業務上の機密情報を入力し、情報漏洩事件に発展。社内での使用が一時禁止された事例があります。
🔓 主な情報漏洩リスク3選
- 入力データの学習利用と再出力の危険性
- サーバーへのデータ保存と不正アクセス・漏洩リスク
- サーバー側のバグによる他ユーザーへの露出
日本国内でも企業による生成AI導入が進みにくい理由の一つに「セキュリティへの懸念」があります。IPA(情報処理推進機構)の2024年調査によれば、企業における生成AI導入率は約17.2%にとどまっており、導入を控える理由として最も多かったのが「情報漏洩などセキュリティリスクへの不安(41.6%)」です。

特に中小企業においては、「社内に詳しい人材がいない(34.9%)」や「ガイドライン整備に手が回らない(26.5%)」といった声も多く、技術的なハードルだけでなく、リソース不足や体制構築の遅れも課題となっています。
情報漏洩を防ぐためにできること【個人編】
個人で生成AIを使う場合でも、ちょっとした気配り次第でセキュリティリスクを大きく減らすことができます。
以下に挙げるポイントを意識するだけで、「うっかり情報漏洩」を防ぐことが可能になります。
✅ 重要な個人向け対策一覧
- 「Chat history & training」機能のオフ設定
- 入力内容を厳選(マスキング・抽象化)
- アカウント管理の徹底(パスワード強化、ログアウトの習慣、定期変更)
- チャット履歴の適切な管理(履歴削除、履歴オフ活用)
- デバイスやブラウザのセキュリティアップデートの継続
これらの対策は、一つ一つはシンプルですが非常に効果的です。
「知らずにうっかり」情報を漏らしてしまう前に、事前にできることをやっておくことで、安心して生成AIを使える環境が整います。
個人の管理意識が重要だ!
情報漏洩を防ぐためにできること【企業編】
企業が生成AIを導入する場合、個人利用よりもはるかに多くの情報と責任を伴います。特に、機密性の高い情報や顧客データを扱う場面では、誤った使い方が致命的な情報漏洩リスクにつながりかねません。
ここでは、組織全体として取り組むべき4つの対策の柱をご紹介します。どれも企業の信頼を守りながら、生成AIの恩恵を最大限に活かすために欠かせない視点です。
企業が講じるべき4つの柱
(1)AIサービスの選定と設定変更
- ChatGPT Plus、Enterprise、Teamプランの活用
- API経由の安全な利用の検討
- 履歴学習のオプトアウト設定
(2)入力データの管理とマスキング(匿名化)
- 固有名詞の仮名化(例:「○○株式会社」→「X社」)
- 数値や日付の抽象化
- Officeファイルのメタデータ削除
- 自動マスキングツールの導入(Data Anonymizer、exaBaseなど)
- 人手による最終確認の徹底
(3)社内ルールと教育体制の整備
- ガイドライン策定と周知徹底
- 全社員への教育実施(ITリテラシーを問わない)
- データ分類と「AI入力禁止」情報の明示
- ログ監視と管理体制の構築(ChatGPT Enterpriseの活用)
(4)高セキュリティ環境でのAI利用
- オンプレミス運用
- プライベートクラウド(Azure OpenAI など)の活用
- ローカル端末(Edgeデバイスなど)でのオフライン利用
- セキュリティ強化済みの商用サービス(ChatAI、NTTデータソリューションなど)の導入
これらの対応は、情報漏洩リスクを最小限に抑えつつ、業務効率化のメリットを享受するための具体的かつ実行可能なステップです。
特に中小企業においては、すべてを一気に導入するのではなく、自社のリソースやリスクレベルに応じて優先順位をつけ、段階的に整備していくことが現実的です。

とはいえ、大企業と異なり経営資源の脆弱な中小企業・小規模事業者については、下記の「ガイドラインの設定」と「匿名化」という「仕組み」で、まずは生成AIを活用することをおすすめします。
生成AIを活用すると仕事の効率は間違いないく3倍~5倍に跳ね上がります。使わない手はないが、大型投資はできないなら、「仕組み」を整えることが重要です。
ガイドラインの具体例
企業での生成AI活用を安全かつ有効に行うには、明文化された社内ガイドラインの策定が欠かせません。以下は、一般企業での運用を想定した具体的なガイドラインの構成例です。
【1】本ガイドラインの目的
生成AI活用に関するトラブルやリスクを回避し、安全かつ効果的に利用するための基本ルールを明確にする。
【2】対象AIツール
社内で正式に承認された生成AIツール(例:ChatGPT、Claude、Geminiなど)に限定。その他の無許可ツールの業務使用は禁止。
【3】禁止事項の例
- 業務外の私的利用
- 意思決定や法的判断に関する完全自動生成
- 顧客・取引先の個人情報の入力
- 秘密保持契約や社内機密情報の入力
- 著作権侵害・不適切な表現を含む利用
【4】入力時の注意点
- 可能な限り匿名化(氏名、社名、日付、数値など)
- 使用する資料やデータは事前に検査・編集(メタデータ含む)
- 「誰に向けた/どの形式の出力か」を明示し、生成精度を高める
【5】生成物の取り扱い
- 出力結果は必ずレビューを実施し、誤情報や偏りを確認
- 公開前に著作権・商標類似のチェック
- 商用利用時は利用規約を遵守
【6】責任と記録
- 利用者はログ(利用日時、プロンプト、生成物)を保存
- 対外文書に使用する場合は、上長または担当部署の確認を得る
【7】継続的な見直しと教育
- 年1回以上のガイドライン見直し
- 全社員への継続的な研修と情報共有
【8】トラブル対応体制
- トラブル発生時は、速やかに上司または情報管理担当へ報告
- 社内フローに基づく初動対応と外部への連絡体制を確保
これらのガイドラインを整備することで、AIの利便性を活かしつつ、企業としての責任ある活用が可能になります。
具体的な匿名化ガイドライン
生成AIの利用にあたり、入力情報の匿名化は極めて重要なプロセスです。
特に社外公開やクラウド送信を伴う場合には、漏洩リスクを抑えるための明確な基準と手法が必要です。以下に、セキュリティレベル別の匿名化方針を示します。
【1】セキュリティレベルの分類
- 機密文書:生成AIの活用を禁止。未発表の戦略資料・役員議事録・訴訟資料・健康診断など。
- 強(高セキュリティ):AI利用は原則禁止。匿名化対象は「氏名・企業名・住所・役職」など全て。専用ツール+手動確認。部門長以上の決裁推奨。
- 中(中セキュリティ):限定的にAI活用可。主要固有名詞(人名・社名・メール等)を伏字化。簡易ツール+目視確認。係長〜課長の確認が推奨。
- 弱(低セキュリティ):AI活用に支障なし。会社名・商品名などの最低限のみ匿名化。担当者レベルでの確認で可。
【2】文書例の分類(一部抜粋)
- 強:顧客クレーム対応記録、M&A資料、採用評価シート、訴訟関連文書、給与査定表
- 中:社外向け報告書、イベント開催報告、営業メール草案、展示会報告書
- 弱:社内案内文、福利厚生情報、定型議事録、備品申請書類、イントラ記事
【3】具体的な処理方法
- 自動マスキングツール(例:Data Anonymizer、exaBase)で一次処理
- Word/Excelの置換機能や赤字チェックを活用
- メタデータ(作成者・更新者情報)も検査・削除
【4】承認・管理フロー
- 強:部門長/情報管理部門による承認+記録保管
- 中:係長~課長によるチェック+社外共有時の部門長確認
- 弱:担当者確認で可。ただし外部送信前には再確認を推奨
このように、文書の重要度に応じて匿名化処理と利用者の責任範囲を明確にすることで、リスクを抑えながら生成AIを安全に活用できます。
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セキュリティ vs メリット:両立できるのか?
生成AIの利便性は高く、文章生成や要約、問い合わせ対応など、業務効率化に直結するメリットがあります。一方で、無防備な利用が原因で、情報漏洩や誤情報の拡散といったリスクもはらんでいます。
ここでは、「安全性と効率性は両立できるのか?」という疑問に対し、現実的な視点から答えを示します。
- セキュリティと利便性の両立は可能
- 小さな範囲から試し、徐々に拡大するステップ運用が効果的
- 経営層の「リスクコントロールしながら活用する」意識が成功の鍵

生成AI導入では、「怖いから使わない」でも「無警戒に使う」でもなく、リスクを理解した上で活用するという姿勢が大切です。
まとめ
リスクを知れば、怖くない!
ここまで読んでいただいた皆さんは、生成AIに関するリスクとその対策について、かなり深く理解されたのではないでしょうか。
とはいえ、「結局、自分の会社や仕事にどう活かせばいいの?」と迷うこともあるかもしれません。
- ChatGPTなど生成AIのセキュリティリスクは現実に存在
- しかし、設定・マスキング・社内教育で十分に制御可能
- 個人利用もアカウントや履歴の管理徹底で安全に使える
- 「リスクを理解して対策しながら使えば怖くない」
そんなときこそ大切なのは、“リスクを知って向き合う姿勢”。知識と対策をもって臨めば、生成AIは味方になります。
また、日本全国の商工会や商工会議所では、こうした生成AIの導入・活用に関して、専門家を無料で派遣する仕組みも整っています。自社でのAI活用を安心・安全に進めたい方は、ぜひお近くの商工会・商工会議所にご相談ください。