突然ですが、最近こんなお悩みありませんか?
「物価高で仕入コストが上がって利益が出ない…」
「人手が足りなくて、休みもとれない…」
「銀行の借入金利が上がって返済が厳しい…」
そんな声が、全国の中小企業や小規模事業者から多く聞こえてきます。
おはようございます。経営指導員&中小企業診断士のセバスチャンです。
今回は、そんなお悩みに向き合うべく、令和6年度に閣議決定された「2025年版中小企業白書」の内容をもとに、今の時代に求められる「経営力」とその実践方法をわかりやすく解説します。
このブログを読めば、厳しい経営環境の中でも自社の強みを活かし、未来に向けた前向きな一歩が踏み出せること間違いなしです!
中小企業・小規模事業者が直面する厳しい経営環境
中小企業白書が示すように、いま企業を取り巻く外部環境は次の4点に集約されます。
項目内容主な影響 | ||
---|---|---|
金利のある世界 | 政策金利の引き上げ | 借入依存企業の利益圧迫 |
円安・物価高 | 輸入コストの上昇 | 原価増による利益圧縮 |
人手不足 | 賃上げ圧力・人材確保難 | 倒産リスクの増加 |
経営者の高齢化 | 事業承継難航 | 黒字廃業の増加 |

「金利のある世界」の到来
- 2024年3月のマイナス金利政策解除以降、政策金利は段階的に引き上げられました。
- 貸出金利の上昇により、借入依存度の高い中小企業は利益を圧迫されやすい状況に。
- 特に宿泊業・飲食サービス業では、借入依存度が7割超。
- 金利上昇の恩恵を受けにくい構造も問題。
- ただし、価格設定・設備投資・デジタル化による好転可能性も指摘されています。
円安・輸入物価高の継続
- 円安と輸入物価高は2024年度も継続中。
- 中小企業は輸出より輸入比率が高く、利益を圧迫しやすい構造にあります。
構造的な人手不足
- 2024年春季労使交渉では約30年ぶりの高い賃上げ率。
- しかし大企業との格差は広がっており、8割近い労働分配率では更なる賃上げ余力が厳しい。

- 倒産件数への影響も顕著で、人手不足関連倒産が前年比1.8倍に増加(289件)。
経営者の高年齢化と休廃業・解散
- 後継者不在による廃業が課題。
- 黒字廃業が51.1%、経営者の平均年齢・ピーク年齢も上昇傾向。
事業承継も喫緊の課題!
「経営力」とは何か?
「経営力」は、状況判断・戦略策定・組織マネジメント・従業員環境の整備など多面的な力で構成されています。
具体的には以下の8つの取り組みが挙げられます。
1. 製品・サービスの差別化
- 差別化意識のある事業者は業績も好調。
- 小規模事業者は「高品質・地域資源・ストーリー性」による差別化が有効。
中小企業診断士ワンポイントアドバイス
差別化の第一歩は「自社の強みの見える化」です。SWOT分析を用いて、自社の強み(Strength)を整理し、それを活かせる市場機会(Opportunity)と組み合わせたSO戦略を立てましょう。

さらに、顧客アンケートやレビュー分析を通じて「お客様が評価しているポイント」を客観的に把握することも重要です。そのうえで、商品開発やサービス改善にフィードバックし、「うちにしかできない価値」を明文化して発信しましょう。
また、地域密着型事業者であれば、地元の伝統や文化を活かした“物語性のあるブランディング”も効果的です。具体的には、地域の素材を使った商品開発や、地域イベントとのコラボレーションなどが挙げられます。
2. 適切な価格設定と価格転嫁
- 価格転嫁力が業績に直結。
- 原価や利益構造の見える化が不可欠。
- 経理体制強化がカギ。
中小企業診断士ワンポイントアドバイス
まず重要なのは、「価格の根拠を持つこと」です。自社の原価構造(材料費、労務費、間接費など)をきちんと把握し、販売価格にどれだけの粗利が乗っているかを明確にしましょう。Excelやクラウド会計ソフトを使った「原価シミュレーション表」作成は効果的です。
次に、価格転嫁交渉では「見える化された数値」と「共感される理由」のセットが有効です。単なる値上げではなく、品質向上やサービス充実の背景を伝えることで、取引先との関係性を損なわずに価格改定が進みます。
また、業界平均のマークアップ率や粗利率などの指標を参考に、自社の水準が健全かどうか診断することも有益です。商工会・商工会議所などの支援機関から無料で入手できる統計資料も活用しましょう。
3. 設備投資・デジタル化・DX
- 設備・ソフト投資は大企業に比べ低水準。
- 「身の丈DX」など、スモールスタートでの導入が鍵。
- デジタル化の進展が業績を好転させる例も多数。
中小企業診断士ワンポイントアドバイス
まず、設備投資やデジタル化に取り組む際は「課題の見える化」から始めましょう。業務のどこに時間や手間がかかっているか(=ボトルネック)を洗い出し、改善効果が大きい部分から優先的に投資することが重要です。

また、いきなり大規模な投資をせず、クラウド会計やチャットツール、無料の業務アプリなどから始める「段階的DX」がおすすめです。IT導入補助金の活用も視野に入れながら、費用対効果を明確にして進めましょう。
地域の支援機関やIT専門家の無料相談を活用することで、自社に合ったツール選定や導入計画がスムーズに進みます。
4. 人材確保と働き方改革
- 高賃金だけでなく、福利厚生・休暇制度などが定着に効果。
- 経営理念の共有・副業人材の活用も有効。
中小企業診断士ワンポイントアドバイス
人材確保のポイントは「働きやすさ」の可視化です。たとえば、有給取得率や離職率を社内で共有し、改善活動を「見える化」することで、従業員の信頼感を高める効果があります。

また、採用活動では「給与」だけでなく、「職場の雰囲気」「働き方の柔軟性」「経営者の人柄」などの無形資産を積極的に発信することが重要です。SNSや採用ページに社員インタビューや1日の流れを載せるなど、情報の工夫で応募数は大きく変わります。
さらに、副業・兼業人材の受け入れ体制を整えることは、新たな知見の導入にもつながります。社内外の人材活用に柔軟な組織風土がある企業は、人材定着率も高い傾向があります。
5. 経営計画の策定と運用
- 7割が計画策定による効果を実感。
- 補助金獲得や業績向上に直結。
- 支援機関の活用が有効。
中小企業診断士ワンポイントアドバイス
経営計画は「書いて終わり」ではなく「運用して成果を出す」ことが大切です。まずは簡易なフォーマット(A4・1枚)で、「目指す方向性(ビジョン)」「現状課題」「解決策(行動)」を整理し、チーム内で共有しましょう。

計画には「数値目標」と「KPI(達成度を測る指標)」を入れることをおすすめします。たとえば「3か月後に売上◯%アップ」「新規客10件獲得」など、具体的な行動計画があることで、社員の動きも明確になります。
商工会やよろず支援拠点の専門家と一緒に策定することで、実現性が高く、補助金申請にも活用できる「筋の通った計画」になります。
6. 経営者のリスキリング・ネットワーク
- 若手経営者を中心に積極的。
- 異業種ネットワークが成長意欲を醸成。
中小企業診断士ワンポイントアドバイス
経営者自身のリスキリングは「組織風土の変革の起点」となります。学びのテーマは、会計・人材育成・DX・マーケティングなど、自社の課題に応じて重点を絞りましょう。

無料で受けられるオンライン講座や商工会・金融機関主催のセミナーを活用すれば、学びの第一歩は手軽に始められます。特にDXやAI、業界動向など「今後の変化」に強くなる学びが推奨されます。
また、異業種の経営者と交流することで「自社だけでは気づけない視点」を得ることができ、新たなビジネスヒントにつながることも少なくありません。
7. 経営の透明性と開放性
- 経営情報の社内共有が利益率・風土改善に。
- 属人化防止にも貢献。
中小企業診断士ワンポイントアドバイス
経営の透明性を高めるには、「経営数値の社内共有」が有効です。たとえば、毎月の売上・利益・目標達成状況などを、朝礼やミーティングで簡単に報告するだけでも、従業員の意識が変わります。

また、属人化の防止には「業務マニュアルの整備」「定期的な引継ぎ訓練」が効果的です。業務が特定の社員に依存しすぎると、休職や退職時にリスクが高まります。誰でも見られる「共有フォルダ」や「業務フロー図」を整備しておきましょう。
従業員の声を経営に取り入れる仕組み(提案制度や意見箱)を導入することも、風通しの良い職場づくりに貢献します。
8. GX・経済安全保障・人権尊重など新たな価値観への対応
- サステナブルな取組が取引先・人材から選ばれる要因に。
中小企業診断士ワンポイントアドバイス
GX(グリーントランスフォーメーション)や経済安全保障、人権尊重といったテーマは、今や「大企業だけの話」ではありません。中小企業でも、具体的なアクションを示すことで信頼性や取引先からの評価が高まります。

たとえばGXでは、電気使用量の削減、LED化、省エネ機器の導入など、身近なエコ対応からスタート可能です。人権尊重では、就業規則に「ハラスメント防止方針」を明記することも一つの対応です。
これらの取組を「見える化」し、パンフレットやWebサイトに掲載することで、SDGsやESG経営に関心のある取引先・求職者からの信頼獲得につながります。
「スケールアップ」への挑戦とM&Aの重要性
白書では、企業の持続的成長に向けた次のステージとして「スケールアップ(成長拡大)」の重要性が明示されています。ここでは、特に重要な4つの観点から詳しく解説します。
① 売上高100億円の壁の突破
中小企業がより大きな市場に挑戦していく際の指標の一つが「売上高100億円の壁」です。この壁を超えるためには、経営者一人で意思決定・業務推進を行う「属人的な経営体制」から脱却し、組織的経営への移行が不可欠です。
2025年度には、経済産業省が主導する「100億円企業創出プロジェクト(通称:100億宣言)」がスタートしました。これは、地域から未来のリーディングカンパニーを育成することを目的とし、企業規模の拡大や外需獲得に向けた支援を強化するものです。

株式会社共同は、昨年度、私のチームが支援した事業者さんです。参考にしてくださると幸いです。
このプロジェクトでは、事業戦略の高度化、専門人材の確保、資金調達支援、グローバル展開などに関する集中的な伴走支援が行われ、まさに「100億円の壁」を突破するための制度的後押しとなっています。
② 成長戦略としてのM&Aの活用
M&Aはこれまで高齢化・事業承継対策としての「消極的な譲渡手段」として捉えられてきましたが、近年は「成長加速のための積極的な経営戦略」として注目されています。

新たな販路や技術、人材を短期間で獲得できる手段として、中小企業にとっても有効な成長ドライバーです。特に異業種連携や垂直統合によるバリューチェーンの拡張は、競争力強化につながります。
③ PMI(統合後の経営)こそが成功の鍵
M&Aの成功は「買って終わり」ではなく、統合後の経営=PMI(Post-Merger Integration)が成否を分けます。
PMIとは、買収後の企業と買収先企業が一体となって、経営戦略・組織・人材・制度・文化・ITシステムなどを統合し、シナジー(相乗効果)を創出するプロセス全体を指します。PMIの目的は、単なるコスト削減や人員整理ではなく、「価値の統合」と「成長の加速」にあります。

理論的には、PMIは以下の5つの要素から構成されるとされています。
- 戦略統合(どのような目的で統合するのかを明確化)
- 組織統合(組織図・役割・責任の再設計)
- 業務プロセス統合(販売、購買、会計等の統合)
- システム統合(ITインフラの一本化)
- 文化統合(企業風土や価値観の融合)
特に中小企業においては、「文化の融合」が最も難しく、かつ最も重要な要素とされています。買収先の従業員の不安を和らげるためには、対話を重ねた信頼構築と丁寧な情報開示が必要です。
白書では、PMIを重視して信頼関係を構築した企業ほど、80%以上が「想定以上の成果があった」と回答しています。人材・制度・文化の統合に向けた計画的なステップと、従業員との丁寧な対話が求められます。
④ イノベーションと海外展開による外需の獲得
スケールアップを実現するためには、国内市場だけでなく海外市場へのチャレンジも視野に入れる必要があります。製品やサービスに独自性や付加価値がある中小企業ほど、海外での需要創出のチャンスがあります。
また、イノベーションは外需獲得だけでなく、価格競争からの脱却や自社ブランドの構築にもつながります。研究開発支援や海外展開支援制度なども活用しながら、「グローバル×成長」の道筋を描くことが求められます。
経営力向上が鍵だ!
支援機関の役割と連携の強化
課題解決に不可欠な存在として支援機関の活用が重要視されています。
支援活用状況と課題
支援機関は、中小企業・小規模事業者にとって経営課題を解決するための貴重なパートナーです。実際に、約7割の事業者が支援機関を活用しており、特に小規模事業者ではその割合が高い傾向にあります。支援を受けた企業では、売上高・営業利益・顧客数が増加したとの報告が多く、支援の成果が目に見える形で現れていることが分かります。
- 7割が支援機関を活用。
- 売上・利益・顧客数の増加に貢献。
- 支援ニーズの多くは「資金繰り」「販路開拓」「人材確保」。
- 一方で、「時間がない」「どこに相談して良いか分からない」という声も。

ただし、支援を受けていない事業者も一定数存在しており、その理由として「支援制度の情報が届いていない」「相談する時間が取れない」「支援機関の存在を知らない」といった課題が挙げられています。これらの情報格差を埋めるためには、支援機関側の積極的な広報・啓発活動が重要となります。
お待ちしています!
支援機関の課題と連携の必要性
支援機関自身もまた、限られた人材・予算・時間の中で多様な事業者の課題に対応するという構造的な課題を抱えています。特に、「相談対応にあたる職員の不足」や「業界ごとの専門知識・ノウハウの蓄積が追いついていない」といった課題が現場で指摘されています。
- 支援人材不足やノウハウ蓄積の課題。
- 機関間連携により、支援の質が向上。
- 金融機関との連携ニーズが高く、相互補完型の連携体制が求められます。
こうした状況を乗り越えるために注目されているのが「支援機関同士の連携」です。

白書では、他機関と連携して支援を行っている組織ほど「経営課題の解決率」が高いという傾向が示されており、それぞれの機関が持つ強み(例:商工会=地域密着、金融機関=資金支援、よろず支援拠点=多様な専門人材)を活かして補完し合う体制が効果的です。
今後は「役割分担の明確化」「情報共有の仕組み整備」「相互理解を深める研修や会議」などを通じて、より実効性の高いネットワーク型支援体制の構築が期待されます。特に金融機関との連携は、経営状況の把握や信用力の向上においても重要であり、事業者にとっても一層安心感のある支援につながると考えられます。
政府の多角的支援策まとめ
政府は中小企業の経営支援に向けた多様な政策を打ち出しています。
分野 | 主要施策 |
---|---|
物価高・人手不足対策 | 価格交渉促進、下請Gメン、資金繰り支援、省力化投資補助など |
成長支援 | ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金など |
事業承継・再編 | M&A支援、引継ぎ補助、後継者支援ネットワークなど |
伴走支援 | よろず支援拠点、商工会・商工会議所による巡回・窓口支援 |
地域課題対応 | 商店街活性化、災害復旧、地域企業のエコシステム構築 |
税制改正 | 賃上げ促進税制、事業承継税制、少額減価償却資産の特例延長 |
これらの分野は把握しておこう!
まとめ
本白書は、中小企業・小規模事業者にとって、経営者自身の「経営力」を高めることが何より重要であると強く訴えています。
その手段は多岐にわたり、
- 差別化と価格戦略
- 設備投資・DXの導入
- 働き方改革と人材確保
- 経営計画の運用
- M&A・スケールアップ戦略
- 支援機関との連携
など、多面的な取組が必要です。
政府や支援機関も多角的にサポート体制を強化しており、事業者自身がそれを「知って、動くこと」が、成長の第一歩となるのです。
そんな前向きな経営力の再設計が求められています。
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