突然ですが…
「クレーム対応に疲弊し、離職者が出ている」
「明らかに悪質な要求に対して、どう線引きすれば良いのかわからない」
「従業員を守るために社内体制を整えたいが、何から始めればいいのか…」
接客業やBtoCビジネスを展開する中小・小規模事業者の皆さまにとって、カスタマーハラスメント(通称:カスハラ)の悩みは、もはや他人事ではありません。
おはようございます。経営指導員&中小企業診断士のセバスチャンです。
本記事では、2025年6月4日に可決・成立した『改正労働施策総合推進法』に基づき、2026年中の施行が予定されているカスハラ対策の全体像と、中小企業が今から準備できる具体策を、分かりやすくお伝えします。
このブログを読み終えた頃には、「何をすべきか」が明確になり、すぐに行動に移せるようになります!
【定義】法律上の「カスハラ」とは?
2025年の法改正により、労働施策総合推進法第33条にて初めて「カスハラ」が法的に定義されました。
顧客・取引先・施設利用者などによる「社会通念上許容される範囲を超える言動」によって、従業員の就業環境が害される行為

具体的な社会背景
ここでは、具体的な事件について解説します。
コンビニ土下座強要事件
大阪府茨木市のコンビニエンスストアで、来店した男女が店員の態度に言いがかりをつけて土下座させたり、お詫びとして「たばこ6カートン」(2万6700円相当)を要求したりした事件で、男女4人が恐喝容疑で逮捕された。その中の容疑者は不動産会社の社員であることがわかっているが、その会社もホームページに「謹告 お詫び」を掲載して謝罪した。
病院受付暴言事件
札幌市では今年2月下旬、病院で入院中だった52歳の男が男性看護師の頭を殴って重症を負わせたとして逮捕される事件がありました。また、3月28日には、これも札幌市で70代の女が薬剤師に暴行したとして逮捕されています。期限切れの処方箋を持参したところ、薬剤師に処方を断られたことに立腹したとみられています。
※正当な苦情・意見はカスハラには当たりませんが、「手段・態様」が不相当とされる場合には該当します。
私の体験談
私は前職で、コンビニエンスストアの管理職をしていました。当時はクレームが日常茶飯事で、暴言や不当な要求を受けることも多く、まさに地獄のような日々でした。何度か店長から「助けてほしい」という悲鳴のような電話があり、急いで駆けつけると、店長が土下座させられていたり、事務所内で大声で怒鳴られていたりする場面に直面しました。

しかも、その店長たちは、当時の私よりも一回り、二回りも年上の方々でした。あの頃は、数えきれないほどのクレームに対応しながらも、今振り返ると「あれはカスハラだった」と思うことがたくさんあります。
その結果、私は十二指腸潰瘍などの病気にもなってしまいました。あの時代に、今のような言葉や対策があれば――本当に良かったと心から思います。
嫌な思い出だ!
なぜ今、企業課題なのか
それでは、なぜ今「カスハラ」が企業課題なのでしょうか?
非常識な要求をする顧客の存在
顧客の中には、商品・サービスの提供範囲を逸脱した過剰な要求をしてくるケースがあります。たとえば「土下座しろ」「今すぐ店長を呼べ」など、社会通念から逸脱した対応を求める事例も少なくありません。
SNS時代の影響
店舗でのやり取りを動画で撮影し、X(旧Twitter)やYouTube、TikTokなどにアップする行為が増加しています。たとえ顧客側に非があっても、投稿された映像が一方的に拡散され、企業側が炎上リスクにさらされることもあります。

離職者増加・社員のメンタル不調
過剰なクレームや暴言・暴力により、従業員が精神的に追い詰められ、退職やうつ状態に陥るケースも報告されています。職場環境の維持・人材流出防止の観点からも、対策が急務です。
企業のリスクマネジメント
カスハラは単なる現場対応の問題ではなく、企業ブランド・信用・業績に直結する「経営リスク」です。従業員を守る体制づくりは、顧客満足の向上と持続的経営の両方に直結する施策となります。

【対応義務】企業が講ずべき措置とは?
カスハラ対策は「雇用管理上の措置義務」として法制化されました。
中小企業であっても、従業員を1人でも雇っていれば、この義務の対象になります。
企業に求められる具体的な対応内容
下記に具体的な対応内容について解説します。
対応方針の明文化と社内周知
カスハラを許容しない企業としての明確な姿勢を社内規程(就業規則や業務マニュアル)に記載し、従業員に周知します。

対応方針が不明確なままだと、現場で判断に迷い、対応のばらつきや職場混乱を招くリスクが高まります。掲示やミーティングで繰り返し共有することが重要です。
相談体制(窓口・フロー)の整備
被害を受けた従業員が安心して相談できる体制の整備が必要です。

具体的には、相談窓口の明示、対応フローの設計、相談内容の秘密保持、対応履歴の記録など。加えて、外部の相談機関と連携することで、社内で対応できないケースにも備えられます。
再発防止のためのマニュアル整備と研修実施
実際に起こったカスハラ事例や対応プロセスをまとめたマニュアルを作成し、従業員への研修を定期的に行うことが求められます。

特に初動対応やエスカレーション手順を習得することで、現場対応力の底上げと再発防止が図れます。
加害顧客への注意・退出対応、警察との連携体制
社員の安全確保のため、悪質な行為があった場合には毅然とした対応が必要です。

具体的には、顧客への警告・注意喚起、必要に応じた出入り禁止対応、そして緊急時には警察・弁護士など外部機関と連携する体制をあらかじめ整えておくことが望まれます。
相談者の不利益取扱いの禁止
カスハラ被害を申し出た従業員が、報復や差別的な扱いを受けないようにする措置も必須です。

相談したことを理由に昇進・配属などで不利な扱いを受けた場合、企業の法的リスクとなります。相談者を守る規程と風土づくりが重要です。
🔎 公的相談窓口の案内(国の支援体制)
従業員が社内で相談しにくい場合や、企業側の対応が不十分な場合、国の公的窓口も利用できます。
総合労働相談コーナー(厚生労働省)
全国の労働局や労働基準監督署に設置され、ハラスメント全般を含む幅広い労働相談を無料・匿名で受け付けています。
こころの耳(厚労省運営)
メンタルヘルスを含む職場環境全般に関する相談が可能で、チャットや電話も対応。
これらの窓口を従業員に周知することも、企業の対応義務の一部として非常に重要です。
特に中小企業では、社内に相談窓口を整備するまでの暫定措置として、国の相談窓口を案内することが従業員保護に直結します。
こころの耳は診断にもおすすめ!
【罰則】企業名が公表されるリスクも
カスハラ対応を怠った場合、以下のような行政対応が取られる可能性があります。
ステップ | 内容 | 企業に与える影響 |
---|---|---|
助言 | 労働局が改善を促す | 対応の遅れが記録に残る |
指導 | 是正を命じられる | 信頼性の低下 |
勧告 | 違反企業と認定される | 企業活動への影響大 |
公表 | 企業名が社会に公開される | 信用失墜・取引停止のリスク |
カスハラ対策を怠った企業には、厚生労働省や労働局からの助言・指導にとどまらず、悪質な場合には「是正勧告」や「企業名の公表」といった行政措置が取られます。
これは法的な刑事罰ではありませんが、企業の社会的信用に直結する「実質的な制裁」といえます。
特に企業名が公表されれば、メディアやSNSでの炎上、顧客・取引先からの信頼失墜、採用活動や社内士気への悪影響など、波及効果は甚大です。義務を果たさずに放置することは、長期的な経営リスクを生むことになるため、日常的な体制整備と従業員教育が欠かせません。
中小企業診断士的ワンポイントアドバイス
下記に、中小企業診断士視点で解説をします。
3C分析で見る必要な視点
3Cとは、Company(自社)、Customer(顧客)、Competitor(競合)の3つの視点から自社の立場と課題を客観的に把握するフレームワークです。
カスハラ対策においても、この3Cの視点を用いることで、組織としての戦略立案がより明確になります。
Company(自社)
属人的・現場任せの対応にとどまっている場合、組織としての統一対応が困難になります。
まずは「誰が・どのように・いつ対応すべきか」という行動ルールを、社内マニュアルとして明文化することが必要です。加えて、店舗責任者や相談窓口の設置を明確にすることで、対応の属人化を回避できます。
Customer(顧客)
これまで「顧客第一」が行き過ぎた結果、従業員の権利が軽視されがちでした。
今後は「正当な要求」と「社会通念上不当な要求」を線引きすることが不可欠です。社内でNG事例を共有するなど、フロントラインでも判断しやすいように可視化することが重要です。
Competitor(競合)
既にカスハラ対策を進めている企業では、「従業員ファースト」「対応ルールの見える化」などが信頼獲得につながっています。
これにより、離職率の低下、採用広報への好影響、顧客からの評価向上といった副次効果も得られています。他社と比較して、自社の対応レベルを客観的に評価することが求められます。
人財を失わないために!
リスク対応の4類型(リスクマネジメント)
リスクマネジメントには「回避」「低減」「移転」「保有」という4つの基本的な対応手段があります。
カスハラ対策においても、これらの考え方を活用することで、経営上のリスクを計画的に管理し、企業の持続可能性を高めることができます。
区分 | カスハラ対応に当てはめると |
---|---|
回避 | 顧客と接する場面を極力減らす |
低減 | 研修・マニュアルで事前対応 |
移転 | 弁護士・顧問等に外部対応を依頼 |
保有 | 対策せずリスクを受け入れる(最悪の選択) |
この観点はとても重要!
【今すぐ行動】中小企業のための3ステップ
ここでは中小企業のための3ステップを解説します。
企業として取るべき対策
カスハラへの対応は、個人の裁量に任せるのではなく、会社としてガイドラインを設け、組織的に対応することが非常に重要です。
1.エスカレーションルールの確立と周知
エスカレーションルールとは 何か問題が起こった際に、どこに報告し、誰がどのような対応をするのかを事前に全て明確に定めておくルールです。これにより、社員は状況に応じてどのように行動すべきか迷うことなく対応できます。
エスカレーションルールがあれば、管理職も対応が非常に楽になります。そして、エスカレーションルールを研修やマニュアルを通じて従業員に周知し、「会社として対応する」という姿勢を示すことで、従業員は安心して業務に取り組めます。
真面目な従業員ほど「自分の実力不足だ」と問題を抱え込みがちですが、エスカレーションルールがあれば、そのような場合に「これは会社として報告すべき事案だ」と判断できるようになります。これにより、従業員が自分を責める必要がなくなります。
2.従業員への研修の実施
カスハラ対策研修の重要性: 「カスハラ防止」ではなく、「カスハラ対策」として、正しく対処する方法を学ぶ研修が重要です。
クレームとハラスメントの違いの理解: 従業員はクレームとハラスメントの違いを細かく覚える必要はありませんが、エスカレーションルールと合わせて研修で知識を共有することで、「これはカスハラかもしれない」と従業員が自分で判断できるようになり、それ以上無理に自分で対応する必要がなくなります3。
3.定期的な確認とアップデート
一度ルールを定めて終わりではなく、定期的にその内容を確認し、時代に合わせてアップデートし続けることが重要です。
正しい対処のメリット
会社が従業員をしっかり守る体制を整えることで、従業員からの信頼を得られます。
適切なエスカレーションルールを整備し、対応を間違えなければ、顧客からの信頼も得られます。
対応を間違えなければ、SNSなどでの「炎上」を防ぐことができます。対応一つで良い顧客を悪い顧客にしてしまうこともあるため、正しい対処が重要です。
人材確保にもつながるんだ!
📌 実務ポイント
私は前職で、「ばんざいルール」というものを部下たちと共有していました。これは、「ここまでは誠意をもって対応するが、ここから先は対応しない。もしくは法的措置に出る」という内容です。

この「ばんざいルール」をあらかじめ設定しておくだけで、部下の心理的負担は大幅に軽減されました。また、電話対応についても、特定の番号には「○○のクレーマー」などと表示して、そもそも接点を持たないようにする対応も行っていました。
さらに、最初から悪意を持って接してくる人もいます。だからこそ、社内やチームでルールを定めておくことは本当に重要です。私自身、若いころに店長として多くの苦しみを経験したからこそ、同じような思いを部下にはさせたくありませんでした。やはり管理職として、明確なルールを設けることの重要性を痛感しています。
まとめ
最後にまとめます。
- カスハラの定義が法的に明確化され、企業に対応義務が課されるようになった
- すべての事業者が対象。中小企業・小規模事業者も例外なし
- 対応策の未実施によって、行政指導・企業名公表といった“社会的信用の喪失リスク”も
- 社員を守る体制づくりは、顧客満足・組織の持続力の向上にも直結
カスハラ対策でお悩みの方は、ぜひお近くの商工会・商工会議所に無料で相談を。
社会保険労務士などの専門家派遣(無料)もご活用いただけます。
カスハラ対策は単なるコンプライアンス対応ではありません。
社員の安心と、企業の信頼を守る経営課題です。
2026年の本格施行に向けて、今こそ行動を!
参考書
【独学におすすめの教材】
【最後の一押しテクニック】
【2次試験対策】
【実践で使うおすすめの本】