私の名前は一悟。「いちもんじ さとる」と読む。あだ名は「いちご」だ。
みなさんは、深夜の繁華街の接客経験があるだろうか?そこにはたくさんの人々のドラマがある。
今日は、そんなお話し。
なお、閲覧に関しては自己責任であることと、一切のコメントへの回答はしないので、興味がある人のみ読んで欲しい。
(この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません)
【第3話】 夜のカーニバルと使えない従業員
当時、最初に配属された店舗は市内の繁華街の中心地であり、夜中が昼よりもお客が多く、夜の勤務が中心となった。
客層は以下が中心である。
- 仕事帰りの酔っ払い
- 出退勤の夜の蝶
- ホームレス
この集団が融合されることで、店内は「カーニバル」と化すのだ。
そんな至極まっとうな午前2時の丑三つ時の、日常の一コマである。
その日は、深夜の従業員の松丘さんと2人で業務にあたっていた。松丘さんは長身の眼鏡をかけた気弱な感じの年上の従業員である。
一悟「いらっしゃいませ!・・・少々おまちください。」
レジに夜の蝶たちの長蛇ができている。すると・・・
松丘「副店長!イートインスペースで、お客さんが回っています!」
一悟「は!どゆこと?」
私は妖艶な香りを漂わせる、蝶たちのトンネルをかいくぐり、問題の場所へ向かう。
そこにはホームレスがいた。私たちは彼のことをこう呼んでいた。
落ち武者
彼は器用に禿げた頭を軸に使い、クルクルと逆さの状態で回転しており、さながらヘルメットを被ったラッパーより高速である。
周りには、仕事帰りの酔っ払いが声援を送っている。
一悟「お客様!周りのお客様の迷惑になりますので・・・」
落ち武者
「ヘイヘイヘイヘーイ♪」
すると、さらに松丘さんより緊急報告がある。
松丘「副店長!惣菜コーナーで、お客様が投げてます!」
一悟「は!どゆこと!」
私が惣菜コーナーに目をやると・・・
「ハイ!第一きゅう~~。」
という掛け声とともに
「振りかぶって投げま、たぁ~!すろらいくぅーん♪」
ズドン!
という快音を上げ、その仕事帰りの酔っ払いは漫画のような一回転を加えたフォームで、手づかみで華麗に惣菜をアイスケースへ叩きつけている。ドリフの加藤茶さながら、呂律が回っていない。
一悟「お客様!やめてください!困ります!」
「ハイ!もっ、いっきゅう~、いっきまーす!」
(ダメだこりゃ!)
一悟「やめろっ、つってんだろ!!」
私は、その酔っ払いバカ投手を抑え込む。
一悟「松丘さーん!警察呼んで~!」
そんな危局のなか、松丘さんが駆け寄ってくる。
松丘「副店長!!」
一悟「は!!今度は、なんや!!」
と思わず声を荒げる私。
松丘「今来た女性のデリ(〇ル)の方が、チラシ置かせてください!だそうです!」
一悟「・・・お前さ、今の状況わかってる?とにかく警察呼ぶのが先だろうが!」
すると、彼はこう言い放つ。
「だってぼく、あそこ(デリ〇ル)の常連なんです!!」
(そこぉ~)
「お前くびにすんぞ!早く警察呼べ!ぼ〇が!!」
私は穏やかな人間と思っていた・・・がしかし、環境は人を大きく変える。この状況を治めるには強気で進めるしかない。
私は鬼だ
・・・
鬼になれ!
ハイ!覚醒しました!
社員鬼化
その後、警察がやっと到着し、その場は収束へ向かうこととなる。
デリ〇ルバカ「やっと落ち着きましたね。ところでA副店長、先ほどの件(デリの件)、仕事が終わってから僕、店に顔だすのでチラシの件伝えていいですか?」
一悟「・・・(〇ね)」
環境の変化から、わずかの期間で学生が鬼になるまでは半年とかからなかった。
私はめでたく入社半年目で一回り年上の従業員に引導(くび)を渡したのだ。
(次の日)
酔っ払いバカ投手が申し訳なさそうに謝罪に来店。そこで被害金額を回収。
真面目そうな人間だったのだが、昨日の状況で本性を知っている私は内心はらわたが煮えくりかえっていた。
私は露骨に「防犯カメラのダビングしたバカまるだしの映像」を見せてやった。本人は警察でたっぷり搾られたのか終始謝るだけだった。
「ハイ!もっ、いっきゅう~、いっきまーす!」
あの時の勢いで、もう一球いかんのかい!と心でツッコむ。
一悟「・・・(もう何も言うまい。映像が答えだ。バカ者!)」
そして最近来なくなったので、あとから風の便りで聞いたのだが、「落武者」は、麻薬所持でめでたくお縄についたとか。
もうシャバに戻ってくんなよ!
・・・しかしまだこの時には私は気付いていなかった。
この夜のカーニバル事件で鬼化したことが、後に「あのおぞましい事件」を招くとは・・・
