はじめまして、私の名前は一悟。
よく読み方を聞かれるのだが「いちもんじ さとる」と読む。
あだ名は「いちご」と呼ばれることが多い。
少し私の紹介をしよう。
私は真面目だけが取り柄の人間だ。
父母は自営業で、家庭環境はお世辞にも裕福とは言えない家庭で育った。頭は悪くないとは思うが、良くもない。要は普通。強いて言うなら、何事もバランスよくこなせることが特徴。
とにかく体力だけはある。地元の私立高校卒業後、福祉系大学に入ったのだか、福祉は給与の割には大変だと思い簡単に諦めた。それから全く畑違いの小売業に入社。
特に「明確な目標がない人間」だ。
そんな私の駆け抜けた20代から30代前半の「ブラック企業の体験」について、お伝えしよう。
なお、閲覧に関しては自己責任であることと、一切のコメントへの回答はしないので、興味がある人のみ読んで欲しい。
(この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません)
【第1話】新人と危機感
私は地元の大学を卒業し、「とりあえず」内定をもらった会社へ入社。
この会社は地元では有名な小売業。いわゆるコンビニだ。大手のコンビニとは違い、店舗内に「厨房」のある一風変わったコンセプトの会社だった。
はじめにお伝えしておくが、この会社は現在ない。大手に吸収され「木っ端みじん」だ。今では何も残っていない。
ただ、当時としては売上が300億を超える人気の会社であり、とても忙しかった。
以下は最初に研修生時代に配属された店舗の、「いたってノーマルな日」の一コマである。
大学卒業後、その年は私を含め「5人の新入社員」が入社した。
結論から言う。皆もう辞めている。
理由はそれぞれだが、いかに辞めた理由を列挙する。
- 下半身麻痺でアウト
- 人妻と不倫して統合失調症でアウト
- 幽霊出現店舗で出社拒否でアウト
- 行方不明でアウト
そして最後は私だが、私は自ら辞めたので、良く続いたものだ。
今となれば、彼らの名前も半分は忘れてしまった。今は幸福なのだろうか?
使い捨て
私が①の船橋君との研修を受けている時の話である。
藤谷店長「一くん!船橋くん!」
2人「はい!」
藤谷店長「君たちはついこの間まで学生だったから商売に対する危機感がない。商品を欠品させないためにも発注を予測するように!」
2人「ありがとうございます!」
直立し軍隊みたいに大声で答える。
地元採用あるあるの体育会系のノリ。いまじゃ、死滅したやりとりだが、当時はこれがスタンダートだった。
(帰宅時)
船橋「俺たちもまだまだ慣れてないかもしれないけど、店長の言うとおり学生気分をなくそう!」
いちご「・・・(めんどくさいやつ)。そうだね。(テキトーに)頑張ろう!」
と言った、その瞬間だった!
目の前を藤谷店長のワンボックスカーがさっそうと横切る。
船橋「いちご!今、店長の車の助手席に乗ってた女の子、まみ子ちゃんじゃなかった?」
いちご「・・・(噂は本当だったのか)」
何を隠そう藤谷店長は奥さんがいるにも関わらず未成年の女の子(高校生)に手を出していたのだ。
お前が危機感ねぇーよ!
と、私の心の声がこだまする。
船橋「店長って、従業員を本当に大切にしてるんだね!」
いちご「・・・(お前の脳みそは楽園か?)」
その後、藤谷店長は昇進したにもかかわらず、すぐに会社を辞めた。
理由はこうだ。
藤谷店長「妻との時間を大切にしたいんだよね」
そこぉ~
女子高生に手を出しまくって問題起こしただけだろうが!
この〇畜が!
船橋「藤谷店長って、漢気あるよね!」
いちご「・・・(〇ね)」
その後、真面目に寝る間も惜しまず働き続けた船橋君は下半身不随で会社を去ることとなる。
真面目も大事だけど、命が大事よ!
いや、まじで!
【第2話】 副店長 VS べてらんおばちゃん
どの会社もそうだが、職場には裏で従業員たちを押さえている性格のずれた通称「ば〇ぁ」が存在する。
特に正社員で入ったとは言え、自分の母くらいの年齢の人間を相手にするのには精神を使う。
以下は、そんな企業のありふれた日常の一コマである。
私は研修生から「副店長」に昇進。
当時私は「ば〇ぁ」と毎日のように喧嘩。
とにかくマニュアル度返しで勝手に弁当のレシピを変えるなど、全く言うことを一切聞かない。私もまだまだ経験は浅かったのだが若さから激しく口論をしていた。
そんな過重なストレスの中、さらに「ば〇ぁ」がある従業員を集中的にいじめ始めたのだ。
いちご「神沢さん!あなたが仕事を頑張っているのも分かるし、この店の戦力であるのは解りますが、なぜ小林さんを集中的にいじめるような真似をするの?」
神沢「そんなん、知らんわぁ!(ちッ)」
いちご「・・・ちッって、あなた失礼ですよ!」
神沢「仕事戻りたいんやけど?もういい?」
むかつく関西弁の言い方で答える。さすがの私も今までのうっ憤もあり、キレてしまった。
ドカッ!!
私は近くの壁を思いっきり殴る。快音とともに、まさかの壁貫通!
私の腕は上腕二頭筋部分まで、めりこんでいる。おそるおそる腕を壁から引っこ抜くと・・・
拳大流血!
私はさらに頭に来て(拳大流血は自分のせい)、「ば〇ぁ」を流血の拳で指さしながら、大声で問い詰める。
すると「ば〇ぁ」が泣き始める。
神沢「だってあの娘!チキン南蛮弁当のチキンに直接タルタルソースのせるんやもん!」
そこぉー
いちご「・・・・・・あのね。神沢さんそもそもチキン南蛮弁当はタルタルソースを上にかけるようにマニュアルでそうなっています!」
いちご「今後もこのようなことを続けるなら、辞めてもらいます!」
実際人手不足で辞められると困るのだが、釘を刺すためにそう言い放った。
神沢「・・・夫に相談します。」
いちご「・・・」
もはや言葉もでてこない。
その後、ば〇ぁは夫に相談。
夫「お前が悪い!」
と切り捨てられた。
旦那さんがまともでよかった。本人も反省し、それからは私に対して猫のようになる・・・
しかし、私はこの戦いで大きな傷を負ってしまう。
まずは「コンクリートの壁を打ち抜いたボロボロの流血の拳(粉砕骨折)」
・・・そして
十二指腸潰瘍 発症
私は学生を卒業して、「わずか3カ月」で胃に風穴をあけることになる。
医者「入院。」
いちご「人もいないので、それは困ります!」
私はその後、ドランゴンボールのピッコロみたいな色の薬と水だけで2週間過ごし、10キロほど痩せた。
みんなも内臓注意!
(破壊した壁は、カレンダーで隠しました)。
【第3話】 夜のカーニバルと使えない従業員
当時、最初に配属された店舗は市内の繁華街の中心地であり、夜中が昼よりもお客が多く、夜の勤務が中心となった。
客層は以下が中心である。
- 仕事帰りの酔っ払い
- 出退勤の夜の蝶
- ホームレス
この集団が融合されることで、店内は「カーニバル」と化すのだ。
そんな至極まっとうな午前2時の丑三つ時の、日常の一コマである。
その日は、深夜の従業員の松丘さんと2人で業務にあたっていた。松丘さんは長身の眼鏡をかけた気弱な感じの年上の従業員である。
一悟「いらっしゃいませ!・・・少々おまちください。」
レジに夜の蝶たちの長蛇ができている。すると・・・
松丘「副店長!イートインスペースで、お客さんが回っています!」
一悟「は!どゆこと?」
私は妖艶な香りを漂わせる、蝶たちのトンネルをかいくぐり、問題の場所へ向かう。
そこにはホームレスがいた。私たちは彼のことをこう呼んでいた。
落ち武者
彼は器用に禿げた頭を軸に使い、クルクルと逆さの状態で回転しており、さながらヘルメットを被ったラッパーより高速である。
周りには、仕事帰りの酔っ払いが声援を送っている。
一悟「お客様!周りのお客様の迷惑になりますので・・・」
落ち武者
「ヘイヘイヘイヘーイ♪」
すると、さらに松丘さんより緊急報告がある。
松丘「副店長!惣菜コーナーで、お客様が投げてます!」
一悟「は!どゆこと!」
私が惣菜コーナーに目をやると・・・
「ハイ!第一きゅう~~。」
という掛け声とともに
「振りかぶって投げま、たぁ~!すろらいくぅーん♪」
ズドン!
という快音を上げ、その仕事帰りの酔っ払いは漫画のような一回転を加えたフォームで、手づかみで華麗に惣菜をアイスケースへ叩きつけている。ドリフの加藤茶さながら、呂律が回っていない。
一悟「お客様!やめてください!困ります!」
「ハイ!もっ、いっきゅう~、いっきまーす!」
(ダメだこりゃ!)
一悟「やめろっ、つってんだろ!!」
私は、その酔っ払いバカ投手を抑え込む。
一悟「松丘さーん!警察呼んで~!」
そんな危局のなか、松丘さんが駆け寄ってくる。
松丘「副店長!!」
一悟「は!!今度は、なんや!!」
と思わず声を荒げる私。
松丘「今来た女性のデリ(〇ル)の方が、チラシ置かせてください!だそうです!」
一悟「・・・お前さ、今の状況わかってる?とにかく警察呼ぶのが先だろうが!」
すると、彼はこう言い放つ。
「だってぼく、あそこ(デリ〇ル)の常連なんです!!」
(そこぉ~)
「お前くびにすんぞ!早く警察呼べ!ぼ〇が!!」
私は穏やかな人間と思っていた・・・がしかし、環境は人を大きく変える。この状況を治めるには強気で進めるしかない。
私は鬼だ
・・・
鬼になれ!
ハイ!覚醒しました!
社員鬼化
その後、警察がやっと到着し、その場は収束へ向かうこととなる。
デリ〇ルバカ「やっと落ち着きましたね。ところでA副店長、先ほどの件(デリの件)、仕事が終わってから僕、店に顔だすのでチラシの件伝えていいですか?」
一悟「・・・(〇ね)」
環境の変化から、わずかの期間で学生が鬼になるまでは半年とかからなかった。
私はめでたく入社半年目で一回り年上の従業員に引導(くび)を渡したのだ。
(次の日)
酔っ払いバカ投手が申し訳なさそうに謝罪に来店。そこで被害金額を回収。
真面目そうな人間だったのだが、昨日の状況で本性を知っている私は内心はらわたが煮えくりかえっていた。
私は露骨に「防犯カメラのダビングしたバカまるだしの映像」を見せてやった。本人は警察でたっぷり搾られたのか終始謝るだけだった。
「ハイ!もっ、いっきゅう~、いっきまーす!」
あの時の勢いで、もう一球いかんのかい!と心でツッコむ。
一悟「・・・(もう何も言うまい。映像が答えだ。バカ者!)」
そして最近来なくなったので、あとから風の便りで聞いたのだが、「落武者」は、麻薬所持でめでたくお縄についたとか。
もうシャバに戻ってくんなよ!
・・・しかしまだこの時には私は気付いていなかった。
この夜のカーニバル事件で鬼化したことが、後に「あのおぞましい事件」を招くとは・・・